藻から採った油でクルマが走る!
クルマになくてはならないものと言えば、ガソリンや軽油。そう、ほとんどのクルマは、化石燃料で動いているのはご存じのとおりです。電気自動車があるだろ、と言う方もいるでしょう。でも、よっぽど特殊な設備を用意しない限り、電気自動車の電気もほとんどが化石燃料によって作られています。つまり、クルマは石油系の燃料がないと走れないんですね。
で、問題はその石油系燃料には限りがあるということ。当たり前ですが、石油が枯渇すればクルマが走れないだけでなく、多くの内燃機関が使用不能に陥るわけです。
そんなこともあって、石油に代わる燃料の研究は古くからおこなわれてきました。代表的なモノは、トウモロコシやサトウキビから作られるバイオ燃料です。すでに、実用化されており国によってはクルマや航空機の燃料として使用されています。
ただし、これらのバイオ燃料は食料と競合します。そこで、食料と競合せずにうまくバイオ燃料を生産する原料として、今熱い注目を集めているのが、微細藻類です。この微細藻類から作るバイオ燃料を、業界的には第三世代バイオ燃料と呼んでいます。
微細藻類は、肉眼ではそのひとつひとつを確認できないくらいの小さな藻です。ユーグレナで知られている、ミドリムシもその一種。これら微細藻類は、光合成により炭水化物を合成。その副産物として油脂を生産し、細胞内に蓄積すんです。早い話、自分たちが増えるためのエネルギー源です。
実験レベルでは、すでに第三世代バイオ燃料でクルマを走らせる実験に成功しています。ただ、まだまだコスト的な面で実用化には至っていません。現状では通常ガソリンの10倍くらいコストがかかるようです。
でも、高いからと言って研究を止めるわけにも行きません。というのは、まだ今後30年はエンジンを積んだクルマが主流のままと言われているからなんです。そのためにも、化石燃料に代わる燃料の開発は必須なんですね。
また、地球温暖化など、Co2削減といった環境問題を解決するためにもバイオ燃料は重要です。
第三世代バイオ燃料のコストを下げて実用化するためには、やはり大量生産できるようにするのが一番です。簡単に言えば、第三世代バイオ燃料を大量に生産するには、微細藻類を大量に生産しなくてはいけないわけです。単細胞の微細藻類は、短時間に倍増するような能力を持ていますが、ただ単に増やせばいいというものでもない点も難しいところ。
微細藻類が増えるためには、細胞内に蓄えたエネルギーである油脂を使用することになります。使用すれば、当然油脂蓄積量は減ります。内部に油脂を蓄えていないものを多く培養しても、燃料の量産にはつながらないというわけですね。
研究によると、微細藻類はストレスを与えると内部に油脂を多く蓄えることがわかってきました。ただし、ストレスを与えるということは、増殖を抑制することにもつながります。油脂の増量と藻類の増殖は二律背反の関係にあるというワケです。そこで、生産能力を維持しつつ油脂を多く作れるよう、研究が進められているんです。
また、微細藻類が生成する油脂組成は複雑で、DHAやEPA、リノール酸、オレイン酸など複数の組成のものが含まれてます。このうち、燃料に適している組成は限られているので、できればその組成を多く生成してくれるのが理想。
そこで考えられたのが、ゲノム編集技術で特定組成の油脂を増加させる方法です。わかりやすく言うと、遺伝子の操作によって都合の良い油脂をたくさん作るようにするわけです。これによって作られた高性能微細藻類を、最適培養環境下で増殖させることで、将来的に微細藻類から大量の第三世代バイオ燃料を生産できるようにしようという試みが進んでいるんです。
現在日本では、大学の研究機関や大手企業の研究機関が手を組んで第三世代バイオ燃料の開発を急ピッチで進めています。ミドリムシのユーグレナでは、2020年に第三世代バイオ燃料でジェット旅客機を飛ばすと明言しています。
微細藻類は種類も多く、また、生育環境などが違い、それぞれの企業が違う特性を持った微細藻類を使って研究開発を進めているんです。マツダと広島大学も共同研究をしています。で研究用に選んだ藻類は、生産プラットフォームとして最も有望なもののひとつである「ナンノクロロプシス」という微細藻類です。ひとつの大きさは、わずか3/1000mmという小ささです。
その大きな特徴として、細胞が小さく増殖が早いこと。高密度培養が可能なこと。他の微細藻類と違いデンプンを作らず、最大で60%も油脂を蓄積できることがあげられます。また、海産であり塩水で量産できる点も大きいアドバンテージです。塩水で培養がOKというのは、雑菌にも強いということです。また、海に囲まれた日本に最適と言ってもいいでしょう。
今回、マツダと広島大学の好意で特別に研究室で実験中のナンノクロロプシスを見せてもらうことができました。まだ研究の途中ですが、2018年度中にはある程度の基礎研究の見通しが立つというから楽しみです。
大量生産が可能になったあかつきには、日本の燃料を第三世代バイオ燃料ですべて賄えるようになる日も来るかもしれません。現状でも、琵琶湖サイズのスペースがあれば日本で使用する分の燃料を生産することは可能とか。コスト的に見合うようになれば、将来海外から原油を輸入しなくても燃料を自給できるようになるかもしれませんね。
内部に油脂を貯め込んだナンノクロロプシス。広島大学とマツダの共同研究チームでは、油脂を蓄えながら大量に増殖できるような研究が進められている。
小さい頃からのクルマ好きが嵩じて、学生時代よりカー雑誌の編集部員に。カー雑誌を多く出版する㈱三栄書房で、モーターファン、オプション、ゲンロク、カーグッズマガジン、ニューモデルマガジンX等、多くの雑誌編集に携わり、現在はフリーランスライターとして活動中。クルマはもちろん、カー用品も大好きで積極的にテストもしている。
また、ミニカー、プラモデル、スロットカーなどクルマ系のオモチャも
ネコと同じくらい大好きだ。