やはりエビスの戦いは凄まじいものでした…。
毎年の厳しい暑さはまったく無かったものの、逆に寒いぐらいの中での戦いはずっと天候に左右され、最後までドライバーを悩ませたこととなり、またそれが凄まじさを助長していったようです。降るのかやむのか? ドライなのかウエット路面なのか? 3日間一度たりとも同じ路面は無かったのではないでしょうか…。
そんな中での戦いでしたから、ある意味勝負に出なくてはならない時に大幅なセッティング変更が必要になります。とはいえ、ドリフトにおいてすぐに大幅にセッティングを変えられるのは…”タイヤの空気圧” です。レース等では大体データがあって空気圧を変えるにしてもほんのわずか、それは気持ちの問題ぐらい? かもしれませんが、ドリフト競技における空気圧はタイヤの種類を全く変えてしまうのと同じぐらい変わってしまうのです。
何故なら、超低圧セッティングが流行?しているからなのです。何年か前から追走においては1.0k以下で使うのは当たり前になってきました。これはとにかくスタートダッシュを良くするためと、ドリフト中のトラクションを稼ぐためです。ここ数年(特に去年あたりから)は、ここぞという時は超低圧の0.5kぐらいで走る選手も出て来たようです。
ただ低ければ絶対的に良いのかといえば、これはけっこう諸刃の剣で、ずっーとアクセルを踏み続けられて強引に押し切れれば最高のドリフトトラクションを得られるものの、スピードコントロールがシビアになりアクセルを戻したりサイドブレーキを中途半端に使おうものならすぐにマシーンはまっすぐ状態、そうドリフトが戻ってしまうのです。またスタートダッシュ時にドラックレースのようにリヤタイヤがつぶれると縦方向のトラクションは稼げますが、いざそこから振り出す時にスムーズに横を向かずに引っかかることがよくあるのです。
ということで、実は追走時の超低圧タイヤは結構なデータと自信がないと使えないのですが…今回エビス戦は少しでも良い走りを、少しでも良い得点をということで、雨やセミウェットでもとにかく内圧は低いところで使うのが良しとされ、各チーム各タイヤメーカーはココ一発で勝負を掛けていたようです。
そんな中、やはり恐れていた事態が…。
あまりの内圧の低さにタイヤがホイールから外れてしまう現象(俗にいうビート落ち)でパンクしてしまい、コントロール不能に陥る事態が起きてしまいました。もちろんこれまでも同じような内圧で走っていても問題なかったのでしょうが、今回のエビスはコースが特殊でした。とにかく最終コーナーをドリフトしてジャンプして来るのですから…横向いた状態で着地してそのまま1コーナーにアクセル全開で飛び込めば…そりゃー外れますよ!!
そんなことが土曜日の時点で何件か出ていたようで、各チーム各タイヤメーカーはギリギリの内圧を探るのに苦労しました。例えば土曜日の追走で恐い思いをした畑中選手等は日曜日の追走ではかなり高めに設定。そしてそれが裏目になり先行車について行くことが出来ずあっさり敗退。今村選手も単走で少し低めのセッティングに引っかかりを感じていたので、追走ではやったことのない高めで臨んだもののやはり今度はスタートダッシュで置いていかれて完敗でした。
勝負の局面では内圧を下げざるを得ないということで、準決勝の戦いで横井選手はとにかくバカっぱやの斉藤太吾選手相手に超低圧で挑みました。実は前日の追走で平島選手の後追いの時にタイヤが外れ、平島号にスピン状態でぶつかっていたこともありギリギリの調整をしたらしいのですが…。
相当勝負ををかけないと斉藤選手には勝てないと思い切り、最終コーナーを先行でジャンプして出てきた途端にタイヤが外れました! 直線の130km/hを越える1コーナーで手前です。ビックリしたであろう後追いの斉藤選手はそれでも上手くマシーンをコントロールしながら横井選手のマシーンをまっすぐ飛ばし、自分もギリギリコントロールしてスポンジバリアに上手くぶつけて最小限のクラッシュにとどめたのです。横井選手のマシーンはタイヤバリアーの上に立てかけられるようになるくらい凄まじい状態でした。(その後すぐに3位決定戦に出られたのがまた凄かったです。)
また、あとで分かったのですが、もともとはこの超低圧セッティングは斉藤選手が率先してやっていて他が真似していったようなものなのですが、今回斉藤選手はずっーと普通の空気圧だったようです(おそらく1.5近辺)。外れるのを回避したというより、前戦大阪の時のようにクラッチの負担が大きくなることを考えると、そんなに内圧を落とさなくても十分速かったから? のようです。いゃ、凄すぎです。
ということで”タイヤ空気圧問題”が飛び出した今回のエビス戦。もしかしたら空気圧規制が入るのか? それともお台場は今まで通りなのか? とはいえ、これだけは言っておきます。良い子は真似しないでください(笑)! これはD1のようなマシーン作りと技術がある人だけが使いこなせるもので、普通にドリフトする人がやっても良いことはありませんから~!
D1グランプリを始めとするクルマ系イベントのMCでおなじみ、愛称は「マナピー(マナP)」。元レーシングドライバー。引退後はMC業やレビュアー業だけではなく、バイナルグラフィック専門会社「MSR」代表としてデザイン業を行っている。1963年3月20日生まれ、東京世田谷区出身、途中2年間ブラジルサンパウロ在住そして現在、山梨県河口湖在住。