ここ10年ぐらいでレースを見た、もしくはレースを始めたという人には、もうナンバーつきレースは当たり前のことなんでしょうが、昔はナンバーのついた車両でレースするなんて考えられなかったんです。それどころかサーキットでのスポーツ走行も、ロールバーが装着されていなかったら不可能で。そんな時代もあったんですよ。それでもサーキットにレーシングカーがあふれていたのは、今にして思うとノーマルじゃ危なっかしくて走れなかったからなんでしょうね。エンジンや足に手を加えて然り、というより物足りなかったからなのかも。
ナンバーつきレースの元祖がヴィッツレースで、スタートは2000年ですから、その頃とかその時代の背景を知らない人が増えて来てもおかしくないわけです。いずれにしてもレースの扉を、ガバ~ンと広げたのは間違いなく、今も昔も入門に適したレースであり続けています。改造範囲も狭いし、軽いクルマですからね、イニシャルコストもランニングコストも控えめですし。今はタイヤまでワンメイクですから、イコールコンディションもしっかり保たれているし。長い歴史の中で、いったいどれだけレースデビューさせて来たんでしょうね?
関東シリーズは常にフルグリッド。深紅に彩られたゼッケン1の車両は全戦でポールを獲得した。
ただ、いきなり最初のレースから結果が残せるなんて、思っちゃダメ。けっこう強者も存在しているんです。関東シリーズや関西シリーズだと台数も多いから、時にコンソレーションに回らなくてはいけなかったり……。それはそれとして楽しいでしょうけど。パワーが少ない、改造範囲が狭い、タイヤもそんなにグリップしない……ということで、レーシングカーとしては不完全形態ですが、だからこそごまかしがきかず、繊細さが要求されるところに魅入られて、長年ヴィッツレースを離れられない人も多いんです。
編集部注:コンソレーションとは決勝に残れなかった参加者によるレースのことで、通常の決勝以外に行われるもの。
やっている方にしてみれば、「早くステップアップしてくれよ」と思っているでしょうが、これから始めようとしている人に対して、激しいバトルを繰り広げてくれれば、それが魅力に映るわけですから「おいコラ」とむげに追い出すわけにはいかない(笑)。実際、関東シリーズのトップ争いなんて、すごく見ていても面白い。かなりレベルが高いですからね。
面白いのは、先日の最終戦でトップ争いを繰り広げた3人、ヴィッツレースからモータースポーツを始めたのではないこと。チャンピオンの峯幸弘選手はジムカーナ、優勝した水谷大介選手はFJ1600、すなわちフォーミュラ、そして北田和哉選手はカートレースからと、それぞれスタート地点が違うんです。でも、共通するのは経験が豊富だということ。まぁ、でも関東シリーズはたまたまそうなっているだけで、他のシリーズにはヴィッツレースで経験を重ねた上で、上位を走れるようになった人はもちろんいます。ご安心ください。
さて、ここからお届けするのは、峯選手のチャンピオンインタビュー。本来だったら勝って決めたかったでしょうが、終盤に逆転されて3位に終わっただけに、正直な胸の内を聞いてみました。
「ありがとうございます、今は悔しいですけどね。目の前のレース、落としたっていうのは。チャンピオンを意識して抑えたっていうのは全然ないですね。展開的に今日は序盤、僕の展開だったので、プッシュしてどんどん離すつもりが、逆にどんどん追いつかれて、手も足も出なかったですね、ちょっと。バランスはそんなに悪くなかったんですが、まわりのクルマのペースが速かった、そんな感じでしたね。水谷選手もいて一対一の対決ではなかったので、そこも複雑なところで。まぁ、今日は仕方ない。連覇できたというよりは、悔しいのが事実ですけどね。関西シリーズと、富士ではちょっと時間が空きますけど、次は12月のグランドファイナル、そこでリベンジしたいと思います。でもレースは面白かったでしょう? 面白くないレースにしようと思って1周逃げたんですけど、ちょっとダメでしたね(笑)」
チャンピオンの峯選手(左)とジムカーナ界では知らぬ者がいない川脇一晃師匠
どうです、熱いでしょう。チャンピオン獲って悔しいという(笑)。こういうドライバーを相手に互角の戦いを繰り広げるには、並大抵の努力じゃ足りません。でも、挑んでみたいと思った人もいるんじゃないかな~。
モータースポーツジャーナリスト。大学在籍時からモータースポーツ雑誌編集部に加わり、90年からフリーランスに転身。以来、国内レースを精力的に取材。本当に力を入れたいのは、非メジャー系レース。特にエントリーフォーミュラのスーパーFJに関しては右に出る者はいないが、並ぼうとする者もいないのが悩みの種?スーパーGT(主にGT300)とスーパー耐久は全戦取材を予定。6月14日生まれ、東京都出身。