こんにちは。小島です。
L20シングルキャブからRB25(NA)へと大幅にパワーアップしたマイ・ハコスカ。明らかに乗りやすく快適に、タコ足も作ってぼちぼち速くなりました。エンジン換装をしたときには、もうこの先いじることはないだろうと思っていたものの、なにかと不満が出てくるもので、より安心できる足回りが欲しくなってしまうのでした。
ハコスカといえば、直列6気筒でFR、フロントはマクファーソンストラット、リアはセミトレーリングアーム式のサスペンションです。
この基本構成、昔のBMWとそっくりなんです。BMWといえば、いつの時代も高性能スポーツセダンのお手本のような存在で、その安定性や操縦性はいろんなところで高く評価されています。
かたやハコスカはといえば、暴走族のお手本のような存在で気合の入ったみなさんから一目置かれる存在です。車高短ハコスカの安定性はお世辞にもいいとは言えず、わだちに流されるボディを重ステでねじ伏せるワイルドな操縦性…。あのBMWと基本は同じ作りのはずなのに、なんでこうも違うのかなと疑問に思ったのがきっかけでした。いろいろと調べるうちに、クルマの安定した挙動をつかさどるのはリアサスペンションの役割が大きいということに気が付きました。
このセミトレのリアサスペンション、日産旧車はもちろん、クラウンやBMW、ベンツなどなど80年代中ごろまでいろんなFR車に採用されてきたサスペンション形式です。部品点数が少なくて、コストと性能のバランスがいいサスペンション。でも、シンプルな構造ゆえに、車高を変えたりしてスイートスポットを外すといまいちなことになってしまうのです。というわけでハコスカのリアサスペンションを詳しく見直すことにしました。
まず、ハコスカが車高を下げていちばん目立つのが極端なネガティブキャンバー。車高の低さを演出するためにハの字になってるほうがかっこいいんですが、これはタイヤの偏摩耗の大きな原因、消しゴムの角を使ってるようなものです。消しゴムの角を使うと、軽い力で字が消せて、消しカスもモリモリ出てきますが、それは消しゴムの接地面が少なくてグリップしていないということ、おまけに減るのも早いのです。また、ハコスカの場合はトーアウトにもなってしまうので直進安定性が悪化してしまいます。
さらに、コーナーリング中は外側のタイヤがより沈み込むため、ネガティブキャンバーとトーアウトの傾向がさらに強くなります。こうなると、極端なネガキャンのためグリップは低下して、トーアウトのためリアは外側に膨らもうとして、タイヤのグリップの限界に近づくにしたがってどんどんスピンしやすい状況になり、限界を超えるといっきにテールが滑ってスピンしてしまうわけです。
ビビりの私はハーフスピンぐらいしか経験がないですが、走行会とかのハコスカがスピンするとこを観察してると、だいたいこんな傾向のような気がします。だったら車高はノーマルで……というわけにはいかないですよね、低いハコスカはかっこいいもん。車高短はキープする方向で、どうすれば安心できる後ろ足になるのか、メガネのおっさんは考えました。
まず、理想的なリアサスペンションのアライメントを考えます。キャンバーは、タイヤが地面に対して垂直(キャンバー0)のときがいちばん接地面積を稼げてグリップする状態です。実際はいちばん踏ん張ってほしいコーナーリング中のことを考えて、遠心力がかかってタイヤがたわんだ状態で接地面積が最大になるように、レーシングカーなんかは最初からちょっぴりネガティブになってます。
コーナーリング中は、車体のロールに合わせて外側のタイヤのキャンバーがネガティブになるように変化して、タイヤは地面に対して常にほぼ垂直に接してくれるのが理想です。このキャンバー変化はセミトレで必ず発生する特性なので、クルマが停まっている状態でキャンバーが適正に調整できていれば問題なさそうです。
リアのトーは、直進安定性を良くするならトーインにすることが基本です。ロールによるトー変化を無視するなら、すでに市販されているアジャスタブルAアームでトーの調整ができるのですが、ハコスカのリアサスペンションの特性は、沈み込むと必ずトーアウトにアライメントが変化してしまいます(バンプ・トーアウト)。つまり、アジャスタブルAアームでトーをきっちり合わせても、車体がロールすると外側のタイヤがトーアウトになっていくことは避けられません。
ですので、サーキットをガンガン走るようなハコスカは、なるべくリアがストロークしないように(ロールによってアライメントが変化しないように)とにかく硬い足回りになっているようです。ただし、ハコスカはボディの剛性も高くないので、ボディの捻じれまで含めたアライメント変化を考えると、今のところタイムを出すためにはそれがベストなのかもしれません。
でも、私のような気合の入っていない軟弱者は、乗り心地を確保して毎日快適に気持ちよく乗りたいのです。街乗りもするし荒れてる峠道も安心して速く走りたいという、超欲張りな仕様を目指しています。楽するためには努力を惜しまないスタイルです。ではどうすればいいのか、いろいろ調べた結果ハコスカはAアームの取り付け角度に問題があるようだ、という結論に至りました。
70年代から80年代にかけてたくさんのクルマに採用されてきたセミトレーリングアーム式サスペンション、詳しく調べていくと年代ごとに少しずつ進化しているようです。
簡単に歴史を説明すると、初期のころ、ハコスカや510ブルーバードの時代は、今より不整地も多かったので、アライメント変化よりもなるべく柔らかい足でストローク量を確保しつつ、ブレーキング時のケツ上がり(テール・スクォート)を抑えることを優先した設計をしていたようです。(なので、以前ノーマル車高のハコスカを運転させてもらったとき、想像以上に安定していて感動したことがあります。)
その後、コイルオーバータイプになったり、ハイグリップタイヤに対応できるように取り付け剛性を上げる工夫がされたり、コーナーリングの遠心力によるブッシュのたわみを利用してリアメンバーをまるごと動かして4WSっぽい動きを狙ったり(ちなみに後のHICASの原型となる設計思想です)同じセミトレーリングアーム式と言えど、マルチリンク式にバトンタッチする直前のころになると、初期のころとはまったく違う設計になっていきます。
ハイキャスのR31は別として、純粋なセミトレのサスペンションとして最も進化したR30やZ31の時代になるとAアームの取り付け位置が、内側(デフ側)が高くなっていて、この取り付け角度のおかげで沈み込んだときにタイヤがトーイン方向に動いてくれます。つまり、ロールが大きくなるとリア外側のタイヤはトーインになり、内側に行こうと踏ん張る(スリップアングルが大きくなる)ので、グリップの限界が高まるのはもちろん、限界を超えてテールが滑りだすタイミングもよりマイルドになるはずです。最近のマルチリンク式のクルマでも、バンプ・トーインになるようにセッティングにされていることから、挙動を安定させる基本のセッティングだということがわかりますね。
というわけで、なんとなくセミトレの基本がわかってきたことだし、ノーマルのリアサスがどんな動きをしているのか確認してみたくなってきました。スペアに持ってたハコスカのリアメンバーとサスペンションアームをひみつ工場にこっそり持ち込んで、3次元測定器で測定させてもらいました。
右端の青と銀のおもちゃの銃みたいな機械でスキャンして、左のパソコンの中に取り込みます。ちなみに、この機械はソフト含めてフルレストアのハコスカGT-Rが買えるぐらいの値段がします。
このときに作ったデータをもとに、パソコンの中でリアメンバーとAアームを組み立てて簡単な3Dモデルを作ってみました。ここから先は自宅作業なので、フリーソフトを駆使してがんばっております。
リアサスの構造を単純化した3Dモデル
実測した今の車高(1G状態)とほぼ同じ位置関係になるように配置しました。左奥が車両の進行方向、円柱は右後ろタイヤのつもりです。この車高から上下に50mmぐらいストロークさせてどんなアライメント変化をするのかシミュレーションしてみましょう。
ノーマル・リアサスペンション
まずはノーマル・リアサスペンションのシミュレーションです。上が平面図、下が後面図、白線が1G状態、赤線が50mmバンプ(縮み)、青線が50mmリバンプ(伸び)です。正確にキャンバー、トーの変化を確認したかったので3D CADで動かして、2D CADに取り込んで寸法を確認しました。数字が読みにくいのでまとめると、
バンプ(縮み側)
キャンバー:-6.10°(ネガティブ)、トー:-0.09°(トーアウト)
1G状態
キャンバー:-3.58°(ネガティブ)、トー:-0.12°(トーアウト)
リバンプ(伸び側)
キャンバー:-1.04°(ネガティブ)、トー:-0.10°(トーアウト)
ロールセンター高さ:104.54mm
キャンバーは1G状態で3°以上なので街乗り仕様としては付きすぎです。そこからバンプするほどネガティブになるのがよく分かります。トーの変化についてはリバンプ→1G状態を少し経たあたりはトーアウト傾向なんですが、ほぼフルバンプ寸前のときにうっすらトーインになるようです。ただ、全体を通してがっつりトーアウトです。
小島式リアサスペンション
はい!続きまして、アームの角度に細工した小島式リアサスペンション、どんな動きをしてくれるのかシミュレーションしてみましょう。今度はアライメントばっちり取れる足回りになる予定なので、1G状態(紫線)のときはキャンバー、トーともに0°にしました。数値をまとめると、
バンプ(縮み側)
キャンバー:-2.92°(ネガティブ)、トー:+0.48°(トーイン)
1G状態
キャンバー:0.00°、トー:0.00°
リバンプ(伸び側)
キャンバー:+2.32°(ポジティブ)、トー:-0.15°(トーアウト)
ロールセンター高さ:160.28mm
この数字だけでいいのかどうか、正直なところよく分からないんですが、とりあえずはっきりとバンプ・トーイン、リバンプ・トーアウトの動きをしてくれそうです。おまけにリアのロールセンターが55mmほど高くなるので、ロールも抑えられそうですね。良かれ悪かれ何か変化はありそうなので、この基本設計で進めることにしました。あとはこの状態を再現できるように部品を作ればいいので、ざくざく図面を描いていこうと思います。
長くなってきましたので今回のコラムはいったんここまで。次回は詳しい図面を描いて、製作に取り掛かっていきます。
▼同じカテゴリーの記事(全9回)
第9回 リアサスペンション大改造(設計、製作編)
第8回 リアサスペンション大改造(構想、シミュレーション編)
第7回 ハコスカ タコ足製作実行編
第6回 ハコスカ タコ足製作準備編
第5回 ハコスカ エンジン換装編
第4回 ハコスカ ボディ補強編
第3回 ハコスカ、何をいじったの?
第2回 ハコスカ乗りが出来あがるまで
第1回 ハコスカとの出会い
免許を取ってからずっとハコスカ乗ってる人。足車はジムニーだが、これもジムニーばかり3台も乗り継いでるという重篤な症状を持つ。ハコスカとジムニーだけという偏った車歴ながら、スポーツカーから働くクルマまで、クルマ全般が大好きなおじさん。1977年生まれ、神奈川県出身。