基本、私はレースの見方に関して、ちょっと変わり者です。普段からそうでしょうと言われたら、「そんなことはない。時には……です」と答えるでしょう。話題性というのが、あんまり得意ではなくて、偉いのは一番速いヤツか、勝ったヤツだと強く考えております。だから、正直言って、KYOJO-CUPには少し斜に構えている面もあるわけです。関谷正徳さんの「女性が集まるところには、男性も集まる」という考え方は、もっともだと思う面ももちろんあって、いきなり注目を集めるレースになりました。で、その相乗効果で同じVITA-01を使う「FCR-VITA」もエントリーが多くなり、本来はハコと混走レースのはずが、単独で決勝が行われるようにもなりました。その効果も認めます。
じゃあ、何を斜に構えているんだい、と聞かれたならば、まずその前に勝ったドライバー、いいバトルを繰り広げたドライバーは大いに賞賛するのが大前提として、「そんなにみんな、チヤホヤしなくてもいいんじゃないの」っていう。結果をちゃんと残しているドライバーは、ちゃんと評価して取り上げるべき。ただ、な〜んて言うのかな、全体じゃあないとは思うんですが、断片的に浮わついている気がしてならないんです。今のままだと、レースクィーンのイベントと変わらなくなっちゃうような気がしてね。若けりゃいいのか? 華やかならいいのか? な〜んか微妙な雰囲気を感じてならないんです。
でも、その中において、結婚、出産で3年もレース活動を休止していた神子島みか選手が、開幕戦ウィナーの小山美姫選手を1秒以上も離してポールポジションを奪うとか、逆に小山選手は決勝で考え方や走り方を見直して、ぶっちぎって勝っちゃうとか、このふたりには感銘を覚えたのは事実。3位になった小泉亜衣選手が「雨の中、すごく緊張して走っていたから、ゴールした後、思わず涙が出た」なんて話は、逆に女の人の強さも感じました。あと7位争い、って本来的には注目しにくい場所だけど、このバトルは大いに見応えがありました。その中には初レースとなった細川慎弥選手の奥様、細川由衣花選手がいたんだけど、「私がイケイケなので、ベテランお二方にしっかり押さえてもらって、すごく勉強になりました」って語っているんですね。そのベテランのひとりが、おぎねぇこと萩原なお子選手。レースアナウンサーとしても活躍中で、かつてフォーミュラトヨタ西日本シリーズでポールを取ったこともある実力派。
で、もうひとりのベテランは小迫美代子選手。実に16年ぶりのレースとなりました。最後に出場したのはネッツカップ ヴィッツレースですが、かつて鈴鹿で人気を誇ったシビックレディースカップの元チャンピオンで、まさに伝説の女性ドライバーの復活です。そういうレースが存在したんで、「日本初の」っていうのを、どうも強調しにくくなったようですが……。そのブルゾン美代子選手じゃなかった、小迫選手はレースガレージを、メカニックのご主人と一緒に主宰していて、今でもサーキットでよくお見かけするので、失礼ながら懐かしくはなかったのですが(笑)。そうはいってもドライバーとしての復活は、なんか嬉しくもあったんです。失礼ながら若くなくても、実力派はもっと出るべきと考えていたものですからね。
「出場のきっかけは、誘われたというか、『VITAがいっぱいあるから乗りぃ〜』って軽いノリで。いざ乗ってみたら、ギャップは大きくて。しかもFFしか乗ったことがなかったので、クルマの向きの変え方が分からず、かなり苦労しています。サーキットそのものは、足回りのセッティングとか、馴らしなんかでずっと走ってはいたんですが……」と小迫選手。ところで大きなお世話ですけど、それ旧姓ですよね?
「前にヴィッツに走っていた時、『吉野』で出ていたんですが、今ひとつ成績が出なかったので。みんなに離婚したんですか、って言われます(笑)。とりあえず真ん中ぐらいを走れるように頑張ります、見守っていてください!」と。ノリは当時と変わりません。まぁ、「昔の名前で出ています」ってことですな。
そして、予選は7番手で、決勝でもポジションを守って7位でフィニッシュ。でも、そのバトルのクリーンさたるや、これぞお手本という感じ。今回は関谷さんによるテクニック講習会が行われ、レースマナーなんかは徹底指導があったようなんですが、それでもベースがしっかりしていなければ、そうそうできないものですよ。
「復帰レース楽しめました! ただ、若い頃のイケイケ感はもうなくなっていました。なので、これからはまた、裏方に戻ります」と、レース後のブルゾン美代子選手、いや小迫選手。せっかくブランクを感じさせない走りを見せてくれたのに、ちょっと残念です。ただ、もう2〜3人、出て欲しい女性ドライバーがいるんですけど、もし出てきてくれたら取り上げることとします。きっと、出て欲しいと思っている人は必ずいるはずなので。
モータースポーツジャーナリスト。大学在籍時からモータースポーツ雑誌編集部に加わり、90年からフリーランスに転身。以来、国内レースを精力的に取材。本当に力を入れたいのは、非メジャー系レース。特にエントリーフォーミュラのスーパーFJに関しては右に出る者はいないが、並ぼうとする者もいないのが悩みの種?スーパーGT(主にGT300)とスーパー耐久は全戦取材を予定。6月14日生まれ、東京都出身。