こんにちは。小島です。
前回までのコラムで、自分が思いつくベストなセミトレーリングアーム式サスペンションをみつけるために、3D CADの力を借りて構想(妄想?)したお話でした。今回はいよいよ実際に図面を描いて形にしていく作業です。
【第8回 リアサスペンション大改造(構想、シミュレーション編)を見る】
まずは改造部分の組立図。さっくり出来上がってますが、最初は手書きの落書きレベルで構造を検討して、CADでつじつま合うように寸法を決めていき、組立て図を作ります。これで全体が見えるので必要な部品が分かりますね。
製作が必要な部品は、単体の詳しい部品図を作ります。これを加工屋さんに渡して作ってもらうので、作る人の気持ちを考えながら必要な寸法、守ってほしい寸法を強調して描いていきます。もれなく描けたら加工屋さんにぶん投げます。ビバ・アウトソーシング!外注大好き!
加工屋さんから部品が出来上がってきたら、いよいよ実践です。クルマが不動状態になるのは悲しいので、スペアのリア足回り一式を切ったり貼ったりしていきます。まずはリアメンバーの古いブラケットをひっぺがして、新しいブラケットを削って微調整しながら溶接する位置を決めます。神よ、貴重なハコスカ純正部品に手をかける我を許したまえ…。
新しいブラケット、2箇所取付の穴がありますが下はノーマルの穴位置です。このノーマル位置の穴を利用してノーマルのAアームを仮組しながらメンバーとブラケットを溶接する位置を正確に決めます。ちなみにノーマル位置の穴があることで、万が一のときにはノーマルAアームにも戻せちゃいます。俺様ヌかりなし。
位置決めしてクランプしたらTIG溶接機を持ってるクルマ屋さんにおじゃましてばちばちっと溶接させてもらいました。
素人のセルフ溶接なのでだいぶワイルドな仕上がりですが、確実に溶け込ませてノーマルよりも長い範囲を溶接してるので、強度はばっちりです。
Aアームのほうは、知り合いがやはりAアームを加工するときに作ったという治具を譲り受けたので、ありがたく活用させてもらいます。ブッシュが付くところの部品を仮組して、Aアームをぶった切りました。
切るラインはマスキングテープでマーキング。マーカーを使わないのは、グラインダーでカットするときの熱でマーカーの塗料が焼けて見えなくなっちゃうのと、カットしない部分を余計な傷から保護するためです。
ぶった切ったところは大穴が開いてしまうので、型紙を作ってフタをする鉄板を切り出しておきます。再びアームを冶具にセットして、またまたTIG溶接機を貸してもらって部品たちをがっつりくっつけます。
はい、くっつきました。
リアメンバーとアーム、部品単体では形になってきたので、ホントに組み立てできるのか仮組してみましょう。
合体するとクルマの部品ぽくなってきますね。この状態で、さすがにこんなとこまでストロークしないだろってところまで実際にアームを動かしてみて、変な干渉がないか確認。うん、いけそう!というわけで、もう一回ばらばらに分解して、このリアメンバーちゃんとアームちゃんたちは粉体塗装の旅へと旅立って行きましたとさ。
粉体塗装が仕上がってくるまでのあいだにもいろいろやることがあります。重要保安部品であるリアサスペンションをやりたい放題に切ったり貼ったりしているわけですから、このままでは車検に通りません。幸いにして図面が揃っているので、改造したリアサスの強度検討をして公認取得に向けて書類を作ろうと思います。待ってろよ国土交通省。
*本来なら強度検討してから改造に着手するのが正しい手順なんですが、大まかな強度はクリアできそうな雰囲気だったのと、製作に必要な時間を前倒しして稼ぎたかったので、時間のかかる粉体塗装中の期間に公認用の書類を作成するというスケジュールで進めました。
さて、公認車検に必要な強度検討、クルマを改造したら必要なもんだってことは知っていますが、具体的にどうしたらよいのやら……。
というわけで、「改造自動車取扱いの解説」という参考書をゲットしたのでカンニングしまくりながら強度検討書類をこしらえてみました。
強度検討の目的は、今回の改造部分が普通にクルマを使っててもぶっ壊れないんですよ、っていうことを陸運事務所の人たちにもよくわかるように証明してあげるのが目的です。あと、自分で設計して作ったものですから、きっちり強度検討することで安心のよりどころとしての大切な役割もあります。
まずはこの改造部分にどんな力がかかると最大の力になるのか、それを調べるのが最初の作業です。基本になる知識は高校物理でやった力の合成と分解。学生のころはこんなの意味あんのかよと先生に悪態つきながら受けた授業が、妙なところで役に立つこともあるので勉強はまじめにしておきましょう。私は悪態ついてたけど…。
いきなりですが、これが改造部分に作用する力の検討図です。Aアームには主にタイヤから受ける力(F)が作用します。タイヤから受ける力というのは、タイヤの摩擦係数と車重(軸重)で決まります。つまりタイヤがロックしてスリップして、アームがどっかの向きに引っ張られてる状態です。タイヤが力を受けると、Aアームは2ヵ所のブラケットに取り付けられているので、それぞれの方向に力が分解されて、引っ張りとか圧縮の力(FA、FB)が働きます。
さらに改造したブラケット部分は、力の向きと取付の角度が違うので、アームを引っ張る力(FAt)と横向きに曲げる力(FAs)が働くことになります。ではFAが最大になるときというのはどんなときなのかを考えると、力の合成の平行四辺形の法則から力FがFBに垂直のときにFAが最大となります。その状態を作図したのが上の図、バックドリフトでも決めてるような横滑りの向きですね。
……なんか、けっこうめんどくさくて悪態のひとつもつきたくなるのも納得ですね。でもハコスカで堂々と走りまわるために必要なことなのでがんばりました。このあたりの考え方も、陸運事務所があんまり混んでないヒマそうなときを狙って行けばいっしょに悩んでくれることがありますので、窓口の人と仲良くするのも大切です。実際、私も2回ほど陸運事務所へ質問しに行きました。
さて、次はさっき求めた最大の力がかかったときに、部品がぶっ壊れないかそれぞれ検討します。部品の強度は材質と形状で決まるんですが、このへんは材料力学の参考書とかが親切で詳しいのでそちらを調べてもらうとして、私が作った検討書類の一部を公開します。
ボルトはネジ山とか首がもげないか、溶接部品は、溶接部分の断面と溶接長さ(実測と少し短めに設定)から強度を計算してもげない証明をしました。これ以外にも改造のビフォーアフターの写真などなど、合計で10ページぐらいの書類を陸運事務所に提出して待つこと2週間……
「改造自動車審査結果通知書」というのをいただきました!これは、お前の計算は間違ってなさそうだから車検受けてもいいよ、っていう証明書みたいなものです。かっこいいハンコが付いてて大事な書類っぽさ満点です。わーい。
そうこうしているうちに、足回り一式が粉体塗装されてぴかぴかになって帰ってきました!
ブッシュ類やハブベアリングはもちろん新品にして、ブレーキもオーバーホール。アームを作り変えたので、ブレーキラインの小変更や車検整備もあるので、この足回りへの交換はショップさんでやってもらいました。作業をお願いしたのはタコ足を作っていただいた「S&Aオートクリエイト」さんです。
まずはバネなしでフロアとアームが干渉しないか確認中。
ブレーキラインもいい感じに作っていただきました。グッジョブ!
足回りの公認車検も問題なく済んだそうです。
車検証の改造内容に「緩衝装置」が追加されました!やったー!!
はい!こうしてめでたくリアサスをリニューアルして公道復帰することができました!が、例によって見た目はなんにも変わらないところが、なんともコラム映えしない感じで…。
さてリアサスを変えたことによって走りがどう変わったのか、まず直進安定性がよりしっかりしました。これは足回りのブッシュ類がだいぶおつかれさんだったのもあるかもしれないですが、リアのアライメントがちゃんと取れたのが大きな要因だと思います。曲がったときのロール感も減っている感じで、ショックの減衰を一段柔らかくして乗り心地重視にしてもコーナーでの安定感は高まっているように感じます。コーナーリング中はリアがしっかりふんばってるのを感じられるので、今までいつ滑るかびくびくしながら抜けてたカーブも、リアのグリップに身を任せてクリアできるような安心感が出てきました。
まとめるとハコスカのじゃじゃ馬感が薄れて、全体的に安定感、安心感が高まりました。おまけにエアコンも効くので、ふと自分がハコスカに乗ってるのを忘れるような不思議な感覚になることがあります。
なぜかこちらをガン見してるおじさん、あれ知り合いだっけかな?とか一瞬思いつつ、あー!そうかハコスカ見てるのか!と気が付き、同時に自分がハコスカ乗ってることも思い出す、そんなことがたまにあるんです。長いこと乗ってるせいで自分が慣れきってるのもあると思いますが、お気に入りのクルマにリラックスして乗れてる証拠ですね。とてもいいクルマになりました。
さて、私の連載コラムはこれでおしまいですが、ちょっとずつ進化して自然体でリラックスして乗れるこのハコスカとは、この先もまだまだ付き合うことになりそうです。お見かけした際には生暖かく見守っていただけると幸いです。
素人文章書きによるこのコラム、読んでいただきありがとうございました。
▼同じカテゴリーの記事(全9回)
第9回 リアサスペンション大改造(設計、製作編)
第8回 リアサスペンション大改造(構想、シミュレーション編)
第7回 ハコスカ タコ足製作実行編
第6回 ハコスカ タコ足製作準備編
第5回 ハコスカ エンジン換装編
第4回 ハコスカ ボディ補強編
第3回 ハコスカ、何をいじったの?
第2回 ハコスカ乗りが出来あがるまで
第1回 ハコスカとの出会い
免許を取ってからずっとハコスカ乗ってる人。足車はジムニーだが、これもジムニーばかり3台も乗り継いでるという重篤な症状を持つ。ハコスカとジムニーだけという偏った車歴ながら、スポーツカーから働くクルマまで、クルマ全般が大好きなおじさん。1977年生まれ、神奈川県出身。