ふと思ったんである。世の中、これだけオートマチック、いわゆるAT車ばかりになって、しかも取る免許がAT限定だとしたら、マニュアル(MT)の車に乗れない人って、すごく多いんだろうなと。時代はそのうち「Hパターンって何?」ってなるんでしょうな。で、それじゃレースできないじゃない……とも思ったんですが、たとえばCVTのN-ONEオーナーズカップもあるし、現実としては何とかならないわけでもない。そもそもMTって言ったって、必ずしもHパターンに限らないわけで、今はシーケンシャルとかパドルシフトっていうのもあるわけです。自分でギヤを操作するんですから、MTってことです。
そう顧みると現代の純粋なレーシングカーでは、Hパターンの方が圧倒的に少ないことに気づきます。N1車両を別とすると、スーパーFJとかVITA、フォーミュラEnjoyに古いJAF-F4、それにRSぐらいでね。鈴鹿のCS2だって、シーケンシャルやパドルの装着を認めています。てか、もうパドルの時代なんですよね。FIA-F4より上のフォーミュラ、GTカー、それにカップカーと呼ばれる、輸入車のワンメイクレース車両だってそう。すると、カートレースからFIA-F4に上がって、そのまま順調にステップアップしていくと、「Hパターンなんて乗ったことがない」ってドライバーも出てくるわけです。
あ、ちょっと待って? 育成ドライバーってどうなんだろう。ホンダもトヨタもスクールカーは、どうやらシーケンシャルみたい。ただ、ここ数年のスカラシップドライバーの多くはスーパーFJを経験しているから、皆無ってわけではなさそうです。ただ、スーパーFJ未経験の、たとえば宮田莉朋選手はなかったとしても、おかしくはありません。それで今年、F3に引き続き出場し、さらにGT300とスーパー耐久にも出るわけで。「おっ、スーパー耐久なら、当然Hパターンでしょう?」と思ったかもしれませんけど、彼が乗るRC350はシーケンシャルなのね。なぜなら、そのクルマはAT設定しかないので、特認で社外のミッションの装着が許されているんです。もっとも宮田選手、18歳になって免許を取って、すでに愛車ありって話ですから、普段乗りで経験しているかもね!
まぁ、でも本当にスーパーFJを経ずして、それでスーパー耐久には出ないってことになれば、そのうちHパターンは必要ないって話になるのかも。ステアリングから手を離さずシフトチェンジできるし、何より確実ですよね。レーシングカーはもう、右足ブレーキっていうのは常識になっちゃったぐらいだし、時代は移り変わっていくものなのかも……。私らの世代って、たぶん家族と共有しない限り、最初のクルマがATなんてあり得なかった。てか、私の場合は叔父さんだったけど、小さい頃、横に乗せてもらってHパターンのシフトチェンジに憧れたもの。止まっている時にはキコキコいじったりしてね(笑)。まぁ、大昔の話です……。
そんな話をしちゃうと、今度はスーパーFJ不要論が再熱しちゃうかもしれないけど、やっぱり必要なカテゴリーだと実感しています。実際、スーパーFJを経験して、FIA-F4に出場した選手は「ギヤ以外の操作は、ほぼ一緒。通用する部分はいっぱいあります」と語っているぐらい。となると、もしかしたら、いずれはスーパーFJもパドルにするべき、って話になるのかも。いや、まだ検討のレベルですが、実際に考えている人もいます。
じゃあ、「VITAなんかは」というと、こちらはツーリングカーの延長線上で、Hパターンのままでいいんじゃないでしょうか。市販車のMTをエンジンごと流用できることで、コスト削減もはかれますしね。そう考えると、スーパーFJだってHパターンのままでいいとも。せっかく昨年からのエンジンノーマル化によって、一時は500万円近くに上がった新車価格を、FJ協会とコンストラクターの努力で約350万円まで下げてくれたんですから(これ、すごいことですよね)、無駄なお金は使わずに済む方がいいでしょう。でも、やっぱりHパターンでスムーズなシフトチェンジができると、気持ちいいんですよね。しっかりヒール&トゥもしながら(笑)。考え方、古い? でも、何にでも乗れるというのは、ドライバーの持ち味のひとつでもありますよね〜。
モータースポーツジャーナリスト。大学在籍時からモータースポーツ雑誌編集部に加わり、90年からフリーランスに転身。以来、国内レースを精力的に取材。本当に力を入れたいのは、非メジャー系レース。特にエントリーフォーミュラのスーパーFJに関しては右に出る者はいないが、並ぼうとする者もいないのが悩みの種?スーパーGT(主にGT300)とスーパー耐久は全戦取材を予定。6月14日生まれ、東京都出身。