今回は何書こう、って考える前に思うのは「暑い」ってことばかり。それほど昨今、猛暑続きで嫌になります。それしか思い浮かばないなら、レーシングカーの暑さについて、あれこれ考えてみることとしましょう。
まず、市販車なら暑い時、エアコンつけて室内を冷やすのは当然のことですが、レーシングカーにエアコンは装着されていないと思うでしょ? それ半分正解です。というのも近頃のGTカーには装着されているんです。
ただ、一般的なエアコンとはちょっと違っていまして。FIA-GT3なんかは、室内を普通に冷やすエアコンが装着されている車両もあったんですが、最新の車両にはないはずです。っていうのも、効率が悪いんですね。外気温も室内を暑くする要因ですけど、それ以上の熱源がエンジン。なのに、軽量化のため、市販車に貼られる遮熱材なんか当然ないわけですから、まぁ冷えない。どうしたってエンジンのパワーを犠牲にしたくないので、大きなコンプレッサーなんか入れられないでしょう? ということで、だったら外しちゃえってことになったんです。
今、装着されるエアコンは室内を冷やすんではなく、ドライバーを直接冷やします。冷気をシートの裏とかヘルメットの中に導くという具合に。これだと、最小限の装備で効率よくドライバーは涼しさを得るわけです。
でも、一般的なドライバー冷却装置といえば、クールスーツですね。簡単にいうとパイプを張りめぐらせたベストのことで、パイプの中に冷水を流すという。で、パイプの先にはモーターのついたクーラーボックスがあるんです。最近じゃ凍らせたペットボトルを冷却装置として使う、コンパクトなものまで販売されていて、装着することによる重量増も、それほど負担にはならなくなっています。
エアコンやクールスーツを使わずとも、窓開ければいいじゃない、って思う方もいるでしょう。実際、そこそこ効くんですよ。私の1号車も実はエアコン壊れていて(笑)、夏場でも窓開けてますけど、下道をそれなりのスピードで走っていれば。でも、渋滞なんかして長い間、止まっちゃうと、もう地獄。逆に高速道路なんかだと、開けすぎちゃうと室内に空気が巻き込んできちゃうでしょ。だから開けるの最小限にするわけですが、法定速度なら大して影響を及ぼさないにせよ、空力が乱れちゃってるんです。これがレーシングスピードだったら、絶対的な影響になるのは、誰にも理解できますよね? だからレース中には窓閉めて走ります。
ただ、スーパー耐久ぐらい長いレースだと、1周コンマ何秒のロスよりもドライバーの集中力とか体力温存を重視して、あえて開けちゃったり、もしくは最小限にしてダクトをつけ、ドライバーに直接風が当たるようにしています。でも、スプリントでは閉めるのがセオリー。
で、ここまでは純粋なレーシングカーの話。昨今、流行っているナンバーつきレースは、というと当然エアコンがついていて、レース前後の行き帰りも考慮し、外すことはレギュレーションで禁じられています。ならば、効かせて走ればいいじゃないと思うでしょうが、ただでさえノーマルエンジンでパワーがないから、誰もスイッチ入れません。みんな負けず嫌いだから、窓も閉めたまま。たぶん、レギュレーションでエアコン入れるのが義務づけられても、「入ってましたよ」って絶対しらばっくれるんだろうなぁ(笑)。繰り返しますけど、みんな負けず嫌いなので。
それでも、86/BRZレースなんて、こないだからクールスーツの装着が認可されたばかりか、推奨されるようになって、けっこうポータブルなクールスーツを使っているドライバーがいましたね。あ、そうそうベストの中にアイスノンみたいな保冷素材を組み込んで、そのものを冷やすアイスベストっていうのもあったなぁ。
あとスタート前の短い時間でも温度を上げないようにと、サンシェードを置くケースはよく見られますね。絵にはなりにくいんだけど、しょうがない。ドライバーのことを思えば……。
モータースポーツジャーナリスト。大学在籍時からモータースポーツ雑誌編集部に加わり、90年からフリーランスに転身。以来、国内レースを精力的に取材。本当に力を入れたいのは、非メジャー系レース。特にエントリーフォーミュラのスーパーFJに関しては右に出る者はいないが、並ぼうとする者もいないのが悩みの種?スーパーGT(主にGT300)とスーパー耐久は全戦取材を予定。6月14日生まれ、東京都出身。